よく覚えていないのだが、あれは5月の終わりの頃だったと思う。 メッセンジャーにて、珍しくある方から話しかけられた。
『こんばんはー。フチさん、お久しぶりです。』
『それよりフチさん、昨日の深夜番組で、嵐が出てるやつ見ませんでした?』
『その番組でね、おもしろい企画やってたんですよー。』
『アフロの人がいて、その人の髪の毛に、カイワレ大根の種を植えるの。』
『そしたら、一週間くらいでちゃんと成長したんですよ!カイワレ!』
「あー、そうなんですかー」
曖昧の相槌をうちつつ、考えた。一体、この人は何が言いたいんだろうか。
・・・いや、違う。そうじゃない。わかっていた。言いたいことはわかっていたのだ。
だから、正しくはこうだ。こう思ったのだ。”コイツ、何考えてるんだ。正気?”
『だから、フチさんにも、できると思って。』
できるわけ、ないだろうが。
確かに僕の髪は天然パーマで、アフロに近い性質をもっている。だから、なんだ?
アフロにカイワレの種を植える。アフロから芽がでる。うん、面白い。
だが、それはあくまでテレビでの話だ。現実とは別の世界の話だ。
一介の大学生である僕が。頭からカイワレ生やして
まともに生活できるわけがないだろうが。一体、何考えてるんだ。
『面白いと思うんですよねー。だから。』
”面白いと、思うんですよね。”
そう。人はいつもそうだ。面白いと思う、という理由だけで天然パーマに接触する。
わけのわからないあだ名。消しゴムのかすを投げつける。割り箸を刺す。
そして、カイワレを植える。
そこにあるのは”天然パーマへの興味”という、丸裸の欲望だけだ。
人の欲望は、恐ろしい。
際限なく大きくなり、どこまでも黒くなってゆく。本人の自覚がないままに。
そして何よりも恐ろしいのは、欲望は時として周りの人間達をも容赦なく巻き込み
少しずつ狂わせてしまうことなのだ。
あ、ちょっとやりたいかも。
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